日本の夏の風物詩「セミ」
そんな彼らは、夏になるとどこからともなく現れて、
精一杯の力を振り絞って、大きな声で鳴き叫ぶ。
しかし、広く知られているように、そんな彼らが成虫として生きられるのは、
わずか1週間という短い期間。
本当はもう少し長生きする個体もいるようですが、それでも1ヶ月以上生きる個体はいません。
しかし、そんなセミは幼虫として生きている期間は長く、
個体によって変化はあるものの、
例えば「アブラゼミ」は2~4年程度の間土の中に潜っていて、
栄養をたっぷり蓄えて大きくなると、
いよいよ土から這い出て、
高い場所に上り、
羽化を始めます。
そして、羽が十分に乾いたら空へと飛び立ち、
次の子孫を残すためのパートナーを探すのです。
しかし、
そんな儚い一生を送るセミは、
子孫を残す前に鳥類などに食べられてしまうことも少なくありませんし、
実は、その敵は土の中にもいます。
そして、それが今回お話しする
「冬虫夏草」
というもの、
この冬虫夏草は、漢方にも利用されることのある植物の一種なのですが、
実は、
羽化する前のセミに寄生し、その養分を吸い取る
という、恐ろしい特徴を持った生き物なんです。
羽化する前のセミに寄生する「冬虫夏草」とは?
冬虫夏草とは、意味が分かると非常に怖い4文字で、
これは、「冬は虫だったものが、夏になると草に変わっている」
という、そのままの現象に由来して名づけられています。
そして、そんな冬虫夏草の画像がこちら↓
先日採取したオオセミタケを液浸標本に。やはり格好良すぎますね。右はツクツクボウシタケのアブラゼミ型。これもえげつない見た目でなかなか好き。 pic.twitter.com/GPRLYu6tby
— 渋谷卓人@『きのこ盆栽』発売中 (@kinoko_bonsai) 2017年4月26日
え、えげつない…。
セミの幼虫から、まるでキノコのような植物が生えていることがわかりますでしょうか?
実際これはキノコのような菌類の一種であり、冬虫夏草の仲間にもいろいろな種類のものがいて、
例えばアブラゼミに寄生するようなものは
「オオセミタケ」という名前で知られています。
このオオセミタケに寄生されてしまったセミの幼虫は、もはや羽化することができず、
寄生されて間もなくして、死んでしまいます。
なんとなく、山道などでキノコを見かけることは少なくありませんが、
実はその根元を掘ってみると、その下には羽化する前のセミの幼生がいるのかもしれません。
今日最大の収穫。
未熟なオオセミタケ。ガガさんが見つけてくれた。
ここから追培養して、どんな変化が出るのかを観察する。未熟なので結実部の褐色が薄い。きっとこれから濃くなっていくのだろう。 pic.twitter.com/oR6MrwtIW6— どろんこ (@doronko15) 2017年3月4日
冬虫夏草の使い道…
実は、冬虫夏草のような植物の仲間にも色々な種類のものがいて、
本来冬虫夏草と呼ばれているものは、蛾の幼虫に寄生するタイプのものを言います。
そのため、今回ご紹介したオオセミタケは、蛾に寄生するタイプの冬虫夏草とは少しだけ分類が違います。
ただ、キノコの仲間であることには変わりありません。
キノコというと、私たち人間も普段からそれをよく食べたりしますが、
皆さん、私が最初に言ったことを覚えていますでしょうか?
そう、実はこの冬虫夏草は、
「漢方」の薬として利用されるのです。
そしてそれは、キノコの部分だけではありません、
なんと、キノコが寄生した蛾の幼虫を、そのまま乾燥させて薬として利用するのです。
イメージとしては以下のような感じ↓
実物はなかなか衝撃的なものですが、
これを乾燥させたものが、古くから漢方の薬として利用されてきたのです。
虫を食べる文化なら日本にもありますが、
キノコが生えた虫を食べるというのは、なかなかヤバい発想ですよね(^-^;
セミは可哀想な存在?
皆さんは、セミの幼虫を見たことはありますか?
私は、以前夏の夜に、土の中からはいでて、登れる場所を探して歩き回っている羽化前のセミの幼虫を見たことがあります。
中には、道の真ん中に間違って歩いてきてしまい、疲れてしまったのか、全く動かないものもいたので、踏まれては危ないと樹に移動させてあげたものもいました。
セミは成虫になると急に飛ぶのでちょっと怖いですが、幼虫は本当にのそのそしているので、なんとなく可愛いです。
しかし、そんなセミの幼虫が、いつのまにか菌に侵され、
体からキノコが生えてしまうなんてなかなか可哀想ですが、
実際は、見方を変えればセミもまた寄生虫の一種です。
というのも、セミの幼虫は、土の中で植物の根につかまり、その養分を吸い取っているためです。
そのため、果物農家の間では、セミの幼虫は害虫として扱われることもあるといいます。
あまりにも養分を摂られてしまうと、大事な果物に行く栄養が少なくなってしまうからです。
そして、考え方を変えれば、
その養分は、植物から一時セミの体に蓄えられ、
それが、植物である冬虫夏草へと還っていくだけです。
何だか不思議な感じがしますが、それが自然の摂理なんですね。
そして、人間が地球の寄生虫や害虫なんていう皮肉が言われることがあることも、なんとなく意味が分かるような気もしますよね。
私たちの知らないところでは、今日も色々な生物がその養分やエネルギーのサイクルを回しているみたいです。